FRB高官のタカ派発言から上向くも、CPI控え様子見に

6:35 JST投稿

【今週の見通し】(9月12日-9月18日)
先週は、日米の金融政策の違いによる金利差から米ドル買いが優勢となり、対円では9月7日のニューヨーク外国為替市場で24年ぶりの高値水準を更新した。1998年8月26日と同水準の144.99円まで円安が進んでおり、最も高い価格(1998年8月11日の高値147.66円)が上値抵抗線の目安の一つとなっている。

今週は、米国人にとって忌まわしい911への意識もあるが、9月13日発表の8月米消費者物価指数(CPI)や15日に発表される8月米小売売上高、9月ニューヨーク連銀製造業景況指数、8月米鉱工業生産、9月フィラデルフィア連銀製造業景況指数、16日の9月ミシガン大消費者信頼感指数などを見極めたい。特に、CPIが予想を上回った場合はFRBがタカ派姿勢を強めるため、米ドル買いが強まることが予想されるため注視したい。

今週から米連邦準備制度理事会(FRB)は9月20、21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)前の沈黙期間(ブラックアウト)に入るため、FRB高官の発言による影響はない。そのため、経済指標の動きがカギとなる。

主な金融スケジュール
9月12日(月):工作機械受注(8月)、中・香港は祝日のため休場(中秋節関連)、英鉱工業生産指数(7月)
9月13日(火):国内企業物価指数(8月)、独ZEW期待指数(9月)、米消費者物価コア指数(8月)
9月14日(水):機械受注(7月)、鉱工業生産(7月)、英消費者物価コア指数(8月)、米生産者物価コア指数(8月)
9月15日(木):貿易収支(8月)、東京ゲームショウ2022(18日まで)、ニューヨーク連銀製造業景気指数(9月)、フィラデルフィア連銀製造業景況指数(9月)、米小売売上高(8月)、米鉱工業生産指数(8月)、米輸入物価指数(8月)
9月16日(金):中・新築住宅価格(8月)、中・小売売上高(8月)、中鉱工業生産指数(8月)、ユーロ圏CPI(8月)、ミシガン大学消費者信頼感指数速報(9月)

予想レートは米ドル・円が140円前半から145円半ば。ユーロ・米ドルが0.98ドル半ばから1.02ドル前半。

【米国】

為替(9月12日6時00分)
 米ドル円(USDJPY) 142.62-142.70 (円)
 ユーロ円(EURJPY) 143.18-143.36 (円)
 ユーロ米ドル(EURUSD) 1.0043-1.0049 (米ドル)
 ポンド円(GBPJPY) 165.15-165.34 (円)
 ポンド米ドル(GBPUSD) 1.1585-1.1588 (米ドル)

9月9日のニューヨーク外国為替市場では、FOMCで3会合連続、通常の3倍(0.75%)の利上げ観測が強まっている。また、13日発表のCPIの発表や週末の要因から、大きな動きが出にくい状況だった。

一方で、この日もFRB高官による金融政策を後押しするタカ派的な発言が続いた。まず、ブラード・セントルイス連銀総裁は「先週2日に発表された雇用統計の数字はまずまず良好だった。来週発表されるCPIでインフレ抑制の進展が示される可能性はあるが、現時点では0.75%の利上げへの傾斜をより強めている。」と述べた。さらに、ウォラーFRB理事が「政策金利が明確に需要を抑制する水準になるよう、FOMCでの大幅な利上げを支持する」との見解を示している。

なお、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループが政策金利先物の動向に基づき算出する「フェドウオッチ」が、FOMCで0.75%に利上げする確率を約90%まで引き上げた。

2年債と10年債(長期金利)の利回りは、48日連続で逆転(逆イールド)した。終値ベースで2年債が3. 563%、10年債が3.315%となっている。

米ドル・円(USDJPY)は、東京市場で黒田日銀総裁の円安けん制発言を受けた円買いの強まりから徐々に値を下げた反動で、早朝にこの日の安値141.51円を付けた。その後は米ドルが買い戻され142.82円まで値を上げたが、週末の機関投資家の調整や長期金利の低下から再び米ドル売りに転じた。FRB高官によるタカ派的な発言や日米の金融政策の違いが意識されると値を戻したものの、CPIの発表を控え様子見の姿勢も強まり142.47円で終えた。

ユーロ・米ドル(EURUSD)は、欧州時間にユーロの買戻しを受け、この日の高値1.0113ドルを付けたが、欧州での景気減速懸念から値を下げ1.0032ドルに値を下げた。その後は、様子見の姿勢が強まり、終値は1.0042ドルとなった。

ユーロ・円(EURJPY)は、東京時間に日銀黒田総裁の円安けん制発言から円を買い戻す動きが強まり徐々に値を下げ、欧州時間に、この日の安値142.64円まで値を下げた。その後、不安定な動きになるも朝方に143円を超えると安定し、小幅に値を上げ143.15円で終えた。

株式
 NYダウ平均 USD 32,151.71 +377.19(+1.18%)
 NASDAQ総合  USD 12,112.307    +250.178 (+2.10%)
 S&P500     USD  4,067.36 +61.18(+1.52%)

9月9日の米株式市場のダウ工業株30種平均は、3日連続で前日の終値を上回った。米ドル高が一旦落ち着いた上、週末前の売りポジションを買い戻す(ショートカバー)の動きが強まり、終日で前日の終値を上回る堅調な取引が行われた。来週13日発表の8月米消費者物価指数(CPI)への改善期待から長期金利が低下し、ハイテク株が買われたことも値を押し上げた要因となった。

債券
 米国債10年 3.315%(+0.023)

商品
 NY原油(WTI) 1バレル=USD 86.79 +3.25(+3.89%)(10月渡し)
 NY金(COMEX) 1オンス=USD 1,728.6 +8.40(+0.49%)(12月渡し)
 

【日本】黒田総裁の円安けん制から円買い強まる

為替(17時)
9月9日の東京外国為替市場では、朝方から時間外の米長期金利が低下している中、日銀の黒田東彦総裁の円安けん制発言が出た。この日、岸田文雄首相と黒田総裁が会談し、会談後に記者団に「急激な為替レートの変動は、企業の経営方針を不安定にし、将来の不確実性を高めてしまう意味で好ましくない。為替市場の動向を今後とも注視する。」と述べ、対ドルで円買いが強まった。

政府要人も口先介入を行なっている。松野博一官房長官は午前中の定例会見で、足元の為替の動きは投機的と表現し、継続する場合はあらゆる措置を排除しない考えを示した。また、鈴木俊一財務相は午前の閣議後の会見で「最近の市場はファンダメンタルズより投機的な動きが背景となって急速に変動しており、過度な変動を憂慮している」と述べた。さらに、「為替動向を高い緊張感を持って注視するとともに、必要に応じて為替市場において必要な対応を取りたい」と語った。

米ドル・円は、時間外の米長期金利の低下から値を下げている中、昼過ぎの黒田総裁の円安けん制発言を契機に急激に値を下げ、この日の安値142.15円を付けた。週末を前に持高調整の買戻しが入ったこともプラスとなっている。その後は小幅に値を上げ17時時点では142.35円となった。

ユーロ・米ドルは、米ドル・円の下落からユーロ買いが優勢となった。独債利回り上昇に伴うユーロ買いが入った上、欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのタカ派的な発言もプラスに働いた。まず、カジミール・スロバキア中銀総裁は、「ユーロ圏のインフレ率は許容できないほど高く、ECBの優先事項は金融政策正常化に注力することだ」と述べ、利上げ継続が確実視された。さらに、クノット・オランダ中銀総裁は「0.75%の利上げは強力で大きなシグナルだったが、追加措置を続けなければならない」と述べ、ユーロ圏の記録的インフレが賃金に波及することを防ぐために追加利上げが必要だとの考えを示した。これらの動きから、この日の高値1.0112ドルを付け、17時時点では1.0096ドルだった。

ユーロ・円は、朝方から徐々に値を上げたが、黒田総裁の円安けん制発言を受け、徐々に値を下げた。この日の安値143.48円まで値を下げたが持ち直し、17時時点では143.73円で取引されている。

債券
 国債先物・22年9月限 148.63 (+0.05)
 10年長期金利 0.245%(変化なし)

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アナリストプロフィール

Noriko Sasaki

投資運用歴25年。日系銀行、シティバンク、日興シティ信託銀行の勤務や、ITベンチャー企業でのIR・広報などを経て、金融に強みを持つライターとして活躍。
これまでのキャリアで培った金融の知識と、企業経営の視点、ニュースを複合的に織り交ぜたマーケット分析を得意とする。


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