米経済指標の悪化から米ドル売り続く

2022/11/14 620 JST投稿

【今週の見通し】(1114-1120日)
先週は米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ減速観測がささやかれる中、11日に発表された10月米消費者物価指数(CPI)の鈍化に加え、11月ミシガン大学消費者信頼感指数速報値の弱い結果からさらに利上げ減速観測が強まり、米ドル売りが強まっている。対円では150円が遠のいたものの日米金利差は依然として大きく、下値の余地は限定的とみられ動向を注視したい。

ユーロは米ドルの低下に伴いユーロ・米ドルで等価を回復する場面も出ており、今週はその状況が続き等価を維持しそうだ。しかしながら、高インフレに加え、地政学リスクや本格的に冬を迎え燃料需要も高まることから長期的には厳しい状況が続くだろう。また、欧州連合(EU)の欧州委員会は11日発表した最新の経済予測で、ユーロ圏の来年の成長見通しを下方修正し、ほぼ停滞すると予想した。2023年にユーロ圏で景気縮小が最も大きいのはドイツと見られており、GDPの四半期予想を示した15ヵ国全てで第1四半期がマイナス成長を見込む。なお、10月のユーロ圏インフレ率は10.7%と過去最高を記録している。

今週発表される、10月米小売売上高(16日)、11月フィラデルフィア連銀製造業景気指数(17日)はいずれも前月から小幅に改善する見通しだ。FRBは早期の金融引き締め見直しに慎重であり、それぞれ市場予想を大幅に上回った場合には米ドル買いが強まるだろう。

なお、8日に行われた米中間選挙では上院(定数100)で民主党が引き続き多数派を維持することが13日午後(日本時間)に確実となった。当初、共和党が圧倒的に有利といわれており、トランプ氏は15日に2024年大統領選挙への出馬を表明するとみられていたが不透明な状況が強まり、再選に意欲をみせるバイデン大統領にとっては後押しとなった。政治情勢の動向によっては米ドル売りにつながるため、行方を注視したい。

主なスケジュール
1114日(月):黒田日銀総裁・金融経済懇談会出席、EU外相理事会(~15日)、OPEC月報、ユーロ圏鉱工業生産(9月)、米中首脳会談(インドネシア・バリ島)
1115日(火): GDP速報値(7-9月)、鉱工業生産(9月)、中国小売売上高/鉱工業生産指数(10月)、独ZEW期待指数(11月)、ニューヨーク連銀製造業景気指数(11月)、米生産者物価指数(10月)、G20首脳会議(~16日、バリ島)、バーFRB副議長・上院銀行委員会証言
1116日(水):機械受注(9月)、中国新築住宅価格(10月)、英消費者物価指数(10月)、米小売売上高(10月)、米鉱工業生産/設備稼働率(10月)、米NAHB住宅市場指数(11月)、ラガルドECB総裁講演、NY連銀総裁/SEC委員長が米国債に関する会議で講演
1117日(木):貿易統計(10月)、ユーロ圏消費者物価指数(10月、改定値)、米住宅着工・許可件数(10月)、米新規失業保険申請件数、フィラデルフィア連銀製造業景況指数(11月)、セントルイス連銀総裁/クリーブランド連銀総裁/ジェファーソンFRB理事講演
1118日(金):消費者物価指数(10月)、アジアア太平洋経済協力(APEC)首脳会議(~19日、タイ)、ラガルドECB総裁講演、 英小売売上高指数(10月)、米景気先行指数(10月)、米中古住宅販売件数(10月)
1119日(土):マレーシア総選挙

予想レートは米ドル・円が137円前半から141円前半。ユーロ・米ドルが1.00ドル前半から1.03ドル半ば。

 

【米国】

為替(1114600分)
 米ドル円(USDJPY)    138.75-138.80 (円)
 ユーロ円(EURJPY)    143.64-143.75 (円)
 ユーロ米ドル(EURUSD) 1.0352-1.0356 (米ドル)
 ポンド円(GBPJPY)    164.19-164.38 (円)
 ポンド米ドル(GBPUSD) 1.1831-1.1838 (米ドル)

1111日のニューヨーク外国為替市場は、投資家心理の悪化が影響した。前日に発表された10月米消費者物価指数(CPI)の鈍化に加え、11月ミシガン大学消費者信頼感指数速報値(結果:54.7、予想:59.5、前回:59.9)が予想以上に低下した。インフレへの懸念と金利上昇による借入コストの増加が影響し、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ減速観測がさらに強まっている。この日は、退役軍人の日の祝日により債券市場が休場だったため、金利の影響は受けなかった。

なお、イエレン財務長官はCPIを「良好な数字」と評価しつつ、一つの指標の単月データに依存し過ぎないよう注意を促した。イエレン長官は数週間前からインフレ減速の兆候について発言してきたが、「住居費は帰属家賃と家賃の両方において、今後も勢いを維持し、何カ月もの間、インフレに上方向の圧力を加えるだろう」と述べている。住居費は総合CPIの約3分の1を占めており、長期間にわたり物価上昇に影響を及ぼすと思われる。

また、一方では中国のゼロコロナ政策緩和への期待が高まった。しかし、12日に中国当局者は規制の微調整であって緩和ではないとコロナ封じ込めの厳格な姿勢が続くことを示唆した。中国では今年の北京モーターショーの中止や企業の供給網に影響が出ており、年々増加してきた独身の日の流通取引総額を今年は下回る見込みも強まっている。

米ドル・円(USDJPY)は、11月ミシガン大学消費者信頼感指数速報値の低下からFRBの利上げ減速観測が強まり投資家心理が悪化した影響から米ドル売りが優勢だった。イエレン財務長官のハト派的な発言もあり、徐々に値を下げ831日以来の安値138.47円まで売られ、終値は138.81円となった。

ユーロ・米ドル(EURUSD)は、米ドル売りが優勢の中、中国のゼロコロナ政策緩和への期待からリスクオンの姿勢が強まりユーロ買いが優勢だった。811日以来、3カ月ぶりの高値1.0364ドルまで上昇した。その後は、小幅に値を下げ終値は1.0347ドルだった。

ユーロ・円(EURJPY)は、米ドル・円とユーロ・米ドル両方の影響を受け方向性が出にくい状況だった。欧州時間には米ドル・円で円買いが強まった影響を受け、この日の安値142.57円まで値を下げた。その後は、ユーロ・米ドルの上昇につられ値を上げ143円半ばまで戻したが東京市場ほどは上昇せず、143.61円で終えている。

株式
 NYダウ平均  USD 33,747.86 +32.49+0.09%
 NASDAQ総合 USD 11,323.331 +209.184 +1.88%
 S&P500   USD 3,992.93  +36.56+0.92%) 

1111日の米株式市場のダウ工業株30種平均は前日の終値を連日で上回った。午前中は、前日にインフレのピークアウト観測が強まり買われた反動から、利益確定売りが優勢となり前日の終値を下回る取引が続いた。ある程度売られると、中国のゼロコロナ政策緩和への期待などから再び投資家心理が上向き、景気敏感株やハイテク株が買われ、前日の終値を小幅に上回り終えた。

*債券市場は退役軍人の日の祝日により休場

商品
 NY原油(WTI) 1バレル=USD 88.96 +0.64+2.88%)(12月渡し)
 NY金(COMEX) 1オンス=USD 1,769.40 +15.70+0.90%)(12月渡し)
 

【日本】米CPI受け米ドル売り優勢に

為替(17時)
1111日の東京外国為替市場では、10月米消費者物価指数(CPI)の鈍化を受け米金利が低下し米ドル売り優勢が続いている。一方で日米の金利差は依然として大きく短期的な動きとみられる。

米ドル・円は、ニューヨーク市場で大幅に下げた反動から140.89円から142.48円まで値を戻した。しかしながら、時間外の米長期金利の低下が嫌気されると徐々に値を下げ、140.05円まで値を下げ、17時時点では141.19円となった。

ユーロ・米ドルは、米ドル売りが優勢となりユーロが買われた。午前中は米ドル・円の上昇から小幅に値を落とし、この日の安値1.0163ドルまで値を下げた。その後は、米ドル売りから徐々に値を上げ815日以来の高値1.0253ドルまで値を上げ、17時時点では1.0244ドルだった。

また、英経済停滞への懸念の強まりから売られていたポンドが買い戻され、対米ドルで8月末以来の高値1.1759ドルを付けた。しかしながら、16時に発表された7-9月期の英GDP速報値(前期比、結果:-0.2%、予想:-0.4%、前回:0.9%)が、前月から大幅に下回り長期的な景気後退の開始が観測されると一転して売りに転じている。

ユーロ・円は、ユーロ・米ドルの動きにつられ143.80円から145.03円まで上昇した。その後は小幅に値を下げ、17時時点では144.64円で取引されている。

債券
 国債先物・2212月限  149.48 +0.37
 10年長期金利  0.235%-0.010

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アナリストプロフィール

Noriko Sasaki

投資運用歴25年。日系銀行、シティバンク、日興シティ信託銀行の勤務や、ITベンチャー企業でのIR・広報などを経て、金融に強みを持つライターとして活躍。
これまでのキャリアで培った金融の知識と、企業経営の視点、ニュースを複合的に織り交ぜたマーケット分析を得意とする。


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