強い米雇用統計ながらFRB利上げ鈍化見通し変わらず

2022/12/05  6:18  JST投稿
 

【今週の見通し】(12月05日-12月11日)
先週の主要な出来事は、11月30日に米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が、12月13、14に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅縮小を示唆し、投資家心理が冷え込んだ。それまで一強だった米ドルに弱気な姿勢が出ている。そんな中、金曜日に発表された米雇用統計では、強い結果が示された。当面は、FOMCを意識した動きが続くが、労働環境をみるとインフレ抑制対策に向けた利上げが続く可能性も残されており、行方を注視したい。仮に、利上げ幅が縮小されても日米の金利差は大きく米ドル・円の底値は固いと思われる。
 
今週の注目指標は、5日の米ISM非製造業景気指数と9日の米卸売物価指数(PPI)だ。これらが、予想を下回った場合は米ドル売りにつながるため注意したい。
 
主なスケジュール
FRB沈黙期間(ブラックアウト・3日~FOMCまで)
 
12月5日(月):日・欧・米・総合PMI(11月)、中国財新総合PMI(11月)、米ISM非製造業景況指数(11月)、ユーロ圏小売売上高(10月)、ラガルドECB総裁講演
 
12月6日(火):日・毎月勤労統計-現金給与総額(10月)、日・家計支出(10月)、オーストラリア準備銀行(中央銀行)政策金利発表、米ジョージア州上院選決選投票
 
12月7日(水):中村審議委員挨拶(長野県金融経済懇談会)、景気一致指数(10月)、インド準備銀行(中央銀行)政策金利発表、米非農業部門労働生産性確定値(7-9月)、カナダ銀行(中央銀行)政策金利発表、ブラジル中央銀行政策金利(セリック金利)発表
 
12月8日(木): GDP改定値(7-9月)、景気ウォッチャー調査(11月)、ラガルドECB総裁講演、米新規失業保険申請件数(12/3終了週)
 
12月9日(金):中国消費者物価指数(11月)、中国生産者物価指数(11月)、米生産者物価指数(11月)、ミシガン大学消費者信頼感指数速報(12月)、米卸売在庫(10月、改定値)
 
予想レートは米ドル・円が132円後半から137円半ば。ユーロ・米ドルが1.03ドル前半から1.07ドル半ば。

 

【米国】

為替(12月05日6時02分)
 米ドル円(USDJPY)    134.31-134.33 (円)
 ユーロ円(EURJPY)    141.53-141.63 (円)
 ユーロ米ドル(EURUSD) 1.0540-1.0541 (米ドル)
 ポンド円(GBPJPY)    165.05-165.14 (円)
 ポンド米ドル(GBPUSD) 1.2287-1.2297 (米ドル)
 
12月2日のニューヨーク外国為替市場では、朝方に発表された11月の米雇用統計の影響が大きかった。
 
朝方に発表された11月の米雇用統計は、大手ハイテク企業のリストラが続いている中で非農業部門雇用者数(結果:26.3万人、予想:20.0万人、前回:28.4万人)では予想を大幅に上回る雇用者数が出てている。さらに平均時給(前年比、結果:5.1%、予想:4.6%、前回:4.9%)でも予想を上回る強い結果が示された。また、失業率(結果:3.7%、予想:3.7%、前回:3.7%)は、前月と同じ水準で推移している。この結果を受け、長期金利が3.638%に上昇した。この結果は、FRBの利上げ減速を強く裏付けるものではなく、まだ高インフレへの対峙が必要であることを示唆したと言える。
 
金融政策の影響を受けやすい2年債と10年債(長期金利)の利回りは、103日連続で逆転(逆イールド)しており、終値ベースでは2年債が4.284%、10年債が3.492%だった。
 
また、金融高官のタカ派的な発言が続いた。まず、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は「十分に景気抑制的なスタンスに到達するためのフェデラルファンド(FF)金利誘導目標の足元の水準や来年に達する必要のある水準という観点から、なおやるべきことがあると考えている」と述べた。さらに、リッチモンド連銀のバーキン総裁は、「労働力の供給は制約された状況が続きそうだ」、「インフレが高止まりするならばFRBは利上げを続ける必要性がある」と述べている。
 
米ドル・円(USDJPY)は、日本時間に欧州勢参加後に急激な米ドル売りが出て、この日の安値133.63円を付けたが、雇用統計の強い結果からこの日の高値135.98円まで値を伸ばした。その後は、FRBの利上げを緩和するとの見方が強まり、長期金利が低下すると、徐々に値を下げ終値は134.31円となった。
 
ユーロ・米ドル(EURUSD)は、米ドル・円の動きにつられた。米雇用統計発表後に米ドル買いが強まるとこの日の安値1.0429ドルを付けたが、その後は徐々に値を上げ終値は1.0535ドルだった。なお、デギンドスECB副総裁が「ユーロ圏の景気後退の可能性は高いが、経済の減速は数週間前に予想されたほどひどくはないだろう」との発言から投資家心理が上向いたことも追い風となっている。
 
ユーロ・円(EURJPY)は、日本時間にリスク回避の円買いの強まりからこの日の安値140.77円まで値を下げた。その後は、デギンドスECB副総裁の発言から投資家心理が上向き小幅に値を戻し142.19円まで値を戻した。しかしながら、再びリスクオフの姿勢が強まり徐々に値を下げ、終値は141.48円となった。
 
株式
 NYダウ平均  USD 34,429.88 +34.87(+0.10%)
 NASDAQ総合  USD 11,461.497   -20.952 (-0.18%)
 S&P500      USD  4,071.70  -4.87(-0.11%) 
 
12月2日の米株式市場のダウ工業株30種平均は再び前日の終値を小幅に上回った。11月の雇用統計で強い結果が示されると、政策金利が高水準で推移する懸念が示され幅広く売られた。しかし、長期金利が低下すると買戻しが入り、小幅に前日の終値を上回り終えている。
 
債券
米国債10年 3.492%(-0.035)
 
商品
 NY原油(WTI) 1バレル=USD 79.98 -1.24(-1.53%)(1月渡し)
 NY金(COMEX) 1オンス=USD 1,809.60 -5.60(-0.31%)(2月渡し)
 
 

【日本】様子見の姿勢続くも欧州勢参加後に円買い強まる

為替(17時)
12月2日の東京外国為替市場は米雇用統計の発表を控え大きな動きが出にくい状況だったが、欧州勢参加後に機関投資家の意図的な取引がみられる場面もあった。
 
米ドル・円は日中、ほぼ横ばいで推移したが、欧州勢参加後に急激に機関投資家の米ドル売りが強まり8月17日以来の安値134.55円まで値を下げた。時間外の米長期金利の低下の影響も大きく、17時時点では134.64円となった。
 
ユーロ・米ドルは、小幅ながら堅調に値を上げた。欧州景気後退の懸念から上昇は限定的だったが、米ドル・円の下落からユーロ買いが優勢となり、17時時点では1.0530ドルだった。
 
ユーロ・円は、リスク回避の円買いが優勢だった。欧州勢参加後に米ドル・円の円買いの強まりにつられ急激に値を下げ17時時点では141.78円となった。
 
債券
 国債先物・22年12月限  148.94 (-0.03)
 10年長期金利  0.250%(変化なし)
 
 

【マーケットアナリティクス】米非農業部門雇用者数により米ドルは反転(12月2日)

この日、トレーダーは米非農業部門雇用者数(NFP)の発表を待っていた。結果は、予想をはるかに上回るものであり、今のところ米ドル買いが優勢となっている。多くの組み合わせで米ドルは重要な下値支持線(サポート)を突破しようとしていたため、この動きはまさに良いタイミングであり、さらなる弱体化への道を開くものであった。例えば、米ドル・スイスフラン(USDCHF)では、象徴的な動きが出ている。
 
USDCHF は 11 月初めから急落しており、11月は近年で最悪の事態の一つとなった。約5.6%の下落で、これは1ヶ月単位で見た時に2015年1月以来で最大の下落を示している。 昨日、今日と連日で弱気(ベア)が続いているが、NFPの結果は強気な反転につながった。ここで重要なのは、このバウンドが起こった場所だ。価格は2つの重要なサポートの組み合わせの上にあった。1つ目は、長期上昇トレンドライン(黒)。2つ目は、2021年9月以降に重要な役割を果たした0.936付近(黄色)の水平方向のサポートだった。
 
今日の反発は下落の兆しからの反転を示し、中期的な強気(ブル)への修正に期待を寄せている。投資家心理はポジティブであり、さらなる上昇のチャンスが大きくなっている。今日の安値を下回って終えた場合、そのポジティブな投資家心理は直ちに打ち消されるが、その可能性はむしろ低くなっているようにみられる。
 
 
米ドル・スイスフラン、デイリーチャート 12月2日(CET・中央ヨーロッパ時間)
 
引用元: “Dollar reverses thanks to the NFP data” (2022年12月2日, AXIORY Global Market News) 
                  
追記:12月5日、日本時間6:02の米ドル・スイスフランは0.9367-0.9370スイスフランで取引されている

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アナリストプロフィール

Noriko Sasaki

投資運用歴25年。日系銀行、シティバンク、日興シティ信託銀行の勤務や、ITベンチャー企業でのIR・広報などを経て、金融に強みを持つライターとして活躍。
これまでのキャリアで培った金融の知識と、企業経営の視点、ニュースを複合的に織り交ぜたマーケット分析を得意とする。


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