目次
実質利回りと米ドルの強さを活用する
ゴールドのファンダメンタルズ分析
インフレヘッジとしてのゴールド
実質利回りとゴールド価格
ゴールド vs 米ドル指数(DXY)
ゴールドと株式市場の関係:ゴールドは「安全資産」なのか?
ファンダメンタルズ分析:まとめ
需要と供給のダイナミクス
供給側 - ゴールドの採掘量
需要側 - 脱ドル化(デ・ダラリゼーション)
重要な経済指標の発表
FOMC(連邦公開市場委員会)
米雇用統計(NFP)
消費者物価指数(CPI)と個人消費支出(PCE)
まとめ
実質利回りと米ドルの強さを活用する
ゴールド(XAU/USD)は、世界で最も象徴的な金融資産と言っても過言ではありません。ゴールドを効果的に取引するためには、金融市場との深い関わりと長い歴史を踏まえた理解が不可欠です。本ガイドでは、ゴールド市場を攻略するための「ファンダメンタルズ要因」と「テクニカル要因」について詳しく解説していきます。
📝 差金決済取引(CFD)による貴金属取引について
貴金属の具体的な取引内容に入る前に、CFDがどのように機能し、先物契約の売買とどう違うのかをしっかりと理解しておく必要があります。
CFD取引の主な特徴
🔷 CFDは、差金決済を行うデリバティブ(金融派生商品)です。 これは、トレーダーが商品を物理的に売買したり、受け取ったりすることがない、ということを意味します。現物の受け渡しは行われず、売買から生じた損益の差額のみを現金で決済する仕組みです。 つまり、トレーダーは主要市場における貴金属の先物価格に連動するように設計された契約の価格変動を予測して取引を行います。このようにCFDを用いることで、先物契約のロールオーバー(乗り換え)や現物の受け渡しといった手間を心配することなく、価格の変動のみを取引の対象とすることが可能になります。
🔷 CFDではレバレッジを利用でき、資本をより効率的に活用することが可能になります。 レバレッジを賢く利用することで、一つの資産に全ての資本を固定することなく、複数のポジションを同時に保有することもできます。また、ポジションサイズを大きくすることで、通常であればわずかな利益率にしかならないような日中の価格変動から、相応の利益を得られる可能性も生まれます。レバレッジはあくまでツールです。賢明に利用すれば潜在的なリターンを増幅させることができますが、理解せずに利用すると損失の額もまた大きくなる可能性があります。
🔷 現物投資とは異なり、CFDのポジションを日をまたいで保有する場合、通常はオーバーナイト・ファンディング・チャージ(スワップ手数料)が発生します。 このコストは、ポジションを長期間保有するほど利益を圧迫する要因となります。そのため、これから解説する取引戦略は、長期的な投資というよりは、短期から中期のトレードに適していると言えるでしょう。
ゴールドのファンダメンタルズ分析
インフレヘッジとしてのゴールド
インフレは、すべての人に影響を与える数少ない経済現象の一つです。物価の上昇が続く昨今、購買力をいかに守るかという課題はかつてないほど重要性を増しており、インフレや通貨安の影響から、資産を守ることができるアセットについての探求が絶えず続けられています。
ゴールドは長い間、この目的のために広く選ばれてきました。しかし、インフレヘッジとしての有効性は実際にはどの程度なのでしょうか?ゴールド価格と米国のインフレ率を比較した以下のチャートで詳しく見てみましょう。

1968年以降のゴールド12か月チャート、米国CPIを重ねて表示
仮に1968年にゴールドを購入した投資家がいたとします。彼が今日まで保有し続けていたとすると、その購買力は購入当時と同等を維持していることになります。
一見すると、これはゴールドが有効なインフレヘッジであることを示唆していますが、手放しで喜べるわけではありません。
株式や債券が通常「数年単位」で評価されるのに対し、ゴールドの場合は「数十年単位」という極めて長期的な視点が求められる点に注意が必要です。
過去50年以上の間に、ゴールドは数年にわたる深刻な価格低迷(ドローダウン)を2度経験しています。この損失期間を埋め合わせるためには、非常に長い時間軸が必要になるのです。
ここで運命を分けるのが、参入(エントリー)のタイミングです。 例えば、別の投資家は1980年の価格ピーク時に購入しましたが、その後の価格が当時の高値を超えたのは、28年後の2008年です。しかも、その待機期間中にインフレ率は180%も上昇しています。インフレを考慮した「実質ベース」でこの投資家がようやく損益分岐点に復帰できたのは、なんと2024年に入ってからになります。
こうした事実は、「長期保有さえすればインフレヘッジになる」というゴールドの優位性に疑問を投げかけるものですが、本トレードガイドでは長期投資ではなく、いかにしてゴールドを取引するかに焦点を当て、優位性(エッジ)を見出す方法を探ります。
単純なインフレ率は必ずしもゴールド価格の先行指標とはなりませんが、調査によると「インフレ・サプライズ(予想外のインフレ変動)」は価格上昇を予測する上で非常に有効であることが分かっています。ゴールドマン・サックスによる1970年から2024年までのPCE(個人消費支出)デフレーターのサプライズに関する分析では、インフレ率が予想を1パーセントポイント上回るごとに、ゴールドを最大構成要素とする貴金属セクター全体が5.2パーセントポイント上昇したことが判明しています。
この事実は、トレーダーは生のインフレデータそのものではなく、インフレ期待値に注目すべきであることを示唆しています。期待値が持続的に上昇すると、機関投資家のゴールドへの関心が高まる傾向があり、これが価格に対する強力な上昇圧力(強気要因)として機能します。
実質利回りとゴールド価格
インフレの次は「金利」について掘り下げていきましょう。ここでは、単なる名目金利(表面上の金利)がゴールド価格にどう影響するかを見るのではなく、インフレを考慮に入れた「実質利回り」とゴールド価格の関連性を考えることが重要です。
市場の定説(コンセンサス)では、「実質利回りが上昇すれば、ゴールド価格は下落するはずだ」と言われています。金利を生まないゴールドに対して債券は利息を生むため、この理屈は非常に理にかなっています。したがって、実質利回り(インフレ調整後のリターン)が高くなれば、論理的に考えて債券の魅力が増し、相対的にゴールドの魅力は低下するはずです。しかし、果たして実際にその通りなのでしょうか?

ゴールド価格 vs 実質利回り(相関を見やすくするため、上下を反転させて表示しています)
このチャートは、分析を容易にするために少し簡略化されています。実質利回りを反転させて表示しているため、理論上は黄色い線(ゴールド)と黒い線(反転させた実質利回り)は同じ方向に動くはずです。つまり、実際の実質利回りが低いほど、一般的にゴールド価格は高くなる傾向があります。
しかし、その関係性は期待していたほど単純ではないようです。2009年から2020年の間、両者の連動性は非常に明確でした。ところがそれ以降、この相関関係は一時的に崩れているように見受けられます。実質利回りが急上昇した局面(=チャート上の黒線は急落)では、本来であればゴールド価格も下落すると予想されました。しかし実際には予想に反して、ゴールドはその歴史の中でも屈指の強力な上昇相場(ブルラン)を継続しました。
この事実は、単に「インフレとゴールド」の関係が一貫していない場合があるだけでなく、「実質利回りとゴールド」の関係もまた、不安定になり得ることを示しています。
次のセクションでは、市場構造を読み解くための要因を検証していきます。
ゴールド vs 米ドル指数(DXY)
ゴールドは世界的に米ドル建て(XAU/USD)で価格付けされているため、他の法定通貨に対して米ドルが強くなれば、理論上はゴールド価格に下落圧力がかかるはずです。しかし、この関係性が常に成り立つのかどうかは、批判的な視点から評価することが重要です。

チャート解説:週足チャートにおけるゴールド価格(ローソク足)と米ドル指数(DXY・青線)の比較
チャートを見ると、ゴールドと米ドル指数(DXY)の間の逆相関の関係は、先ほどの実質利回りよりもはるかに明確に維持されていることが分かります。チャートの点線で示されているDXYが天井をつけたタイミングは、多くの場合ゴールド価格の目先の底(ローカルボトム)と一致しています。
しかしこの連動性は、ある一方向への動きにおいて、より強く作用しているように見えます。
🟣 DXYが下落する場合: ゴールド価格には上昇する強い傾向が見られます。
🟣 DXYが上昇する場合: ゴールド価格はそれほど強い影響を受けていないようで、両者の関係性は弱くなります。
この現象は、ゴールドが本質的に持っているマクロレベルでの上昇トレンドに起因している可能性があります。そこで、より長期的な視点である「月足チャート」に切り替えて、再度分析してみましょう。

月足チャートにおけるゴールド価格(ローソク足)と米ドル指数(DXY・青線)の比較
長期の月足で見ると、両者の連動性はより強まっているように見えます。しかし、ここで注目すべき点は、ゴールド価格が長期的な下降トレンドを形成するためには、米ドル指数(DXY)が持続的かつ急激な上昇(ラリー)を続ける必要がある、という事実です。
この力学は、ある重要な構造的要因によって容易に説明がつきます。それは、法定通貨の価値が常に毀損(減価)し続けているという事実です。
中央銀行は通常、2%のインフレ率を目標としています。仮にすべての主要国がこの目標を維持したとすると(実際にはそれ以上の水準にあることが多いですが)、ゴールドの価格は自動的に、構造的な上昇圧力を受けることになります。なぜなら、ゴールドの価値を測る尺度である「通貨(米ドル)」自体の価値がインフレによって目減りしていくからです。
たとえ米ドルの価値が他の法定通貨に対して一定(横ばい)であったとしても、法定通貨全体の価値が下がれば、相対的にゴールドの価格は上昇します。
これにより、株式市場と同様に、ゴールドにも構造的な強気バイアス(長期的な上昇圧力)が生まれることになります(ただその程度は株式ほど顕著ではありません)。
ゴールドと株式市場の関係:ゴールドは「安全資産」なのか?
さて、ゴールドにはもう一つ忘れてはならない通説、「安全資産」としての役割があります。つまり、「株価が下落したとしても、ゴールド価格は安定しているか、あるいは逆に上昇するはずだ」という考え方です。
しかし、学術的な研究はこの点に疑問を投げかけています。1975年から2012年までのデータを分析した結果、米国S&P500のリターンがマイナス(下落)だった月において、ゴールド価格が上昇した確率と下落した確率は、ほぼ同じだったことが示されています。

上のチャートは、こうした学術的な調査結果を裏付けるもので、S&P 500が大幅に下落するような局面においてゴールドが信頼できる「安全資産」としては機能していないことが分かります。
ファンダメンタルズ分析:まとめ
これまでの検証で、実質利回りや単純なインフレ率といった指標は、それ単体ではゴールド価格の動きを常に正確に決定づけるものではないことが分かりました。米ドル指数(DXY)は、より信頼できる方向を示してはくれますが動きが遅れる(遅行する)ことがあるなど、その相関関係は完璧とは言えません。
こうした結果だけを見ると、「ゴールドの方向性を判断する上で、ファンダメンタルズは役に立たないのではないか? いっそ無視した方が良いのではないか?」と思えてくるかもしれません。しかし、現実は全く逆です。これまでの分析では、検証のために各要素をあえて単独で切り出し、ゴールド価格と比較してきました。しかし実際の市場環境では、これら全ての要素が「同時進行」で絡み合い、ゴールド価格に影響を与えているのです。
トレーダーとしての優位性(エッジ)は、市場の全体像を正しく理解することで成り立ちます。各要因が価格に及ぼす影響力を把握し、目の前にある全ての材料を総合的に判断した上で、相場の方向性に対して自分なりの「確信」を築き上げることが重要です。
時には、異なるファンダメンタルズ要因が互いに矛盾し合い、どちらに動くべきか判断がつかないこともあるでしょう。しかしそれは全く問題ありません。常に売買を繰り返すのではなく「市場の方向性が明確に見える瞬間」を忍耐強く待ち、その好機が訪れた際に迷わず行動することがトレードの成功につながります。
世界の主要な機関投資家やプロトレーダーが、実質利回り、インフレ、そしてドルの強さを監視している以上、価格は間違いなくそれらの要因によって動かされます。だからこそ、あなたもプロアクティブ(能動的)なトレーダーとして、これらのファンダメンタルズに常に目を光らせ、市場の大勢が動き出す前に、一歩先の結論を導き出せるよう努めるべきなのです。
需要と供給のダイナミクス
供給側 - ゴールドの採掘量
地中には、いまだ採掘されていないゴールドが大量に残されています。現在、採掘済みのゴールドは約216,000トンですが、地下には推定で約186,000トンが眠っています。もし、この手つかずの供給量の大部分が突然市場に流入すれば、ほぼ間違いなく価格を押し下げることになるでしょう。
しかし、その186,000トンのうち、現在の価格とコストで採掘しても採算が合う「埋蔵量」として分類されるのは、わずか55,000トン程度に過ぎません。残りの分については、今後ゴールド価格が上昇するか、あるいは実質的な生産コストが低下しない限り、徐々にしか採掘対象にはなりません。
現在の採掘ペースでは、地上在庫に対して毎年約1.5%のゴールドが新たに追加供給されています。この供給増自体は価格にとって弱気材料(下落要因)となりますが、その影響力は一般的に限定的とされています。
需要側 - 脱ドル化(デ・ダラリゼーション)
過去10年間、世界各国は「米ドルの覇権」から脱却しようと試みてきました。ゴールドの主な購入国は非西側諸国である中国、トルコ、ポーランドです。これらの国々は、時の試練に耐え抜いてきた中立的な「価値の保存手段」としてゴールドを選択していると考えられます。
こうした中央銀行による購入活動は、ゴールド需要の全体像を構成する極めて重要なピースです。中央銀行は一般の投資家とは異なり「価格に敏感でない(価格変動をあまり気にしない)買い手」であるため、その動向を注意深く監視し、今後も買いが継続するかどうかを見極めることが推奨されます。
中央銀行の主な目的は利益を上げることではなく、他の法定通貨からの「資産分散」にあるため、通常のトレーダーほど価格変動に左右されません。彼らは価格が大きく上昇している局面でも買い続けることで、市場に強気の圧力を生み出し続けます。また、下落相場(ベアマーケット)になっても購入を止める可能性が低いため、結果としてその買いが価格の「フロア(下値支持)」として機能することになります。
将来のゴールド需要を予測するためには、単に金融市場やマクロ経済を監視するだけでなく地政学に関する基本的な理解を持つことが不可欠です。
非西側諸国が欧米中心の金融システムから距離を置こうとする中、特定の国や通貨への依存度を下げるための「戦略的な資産分散」を背景としたゴールド需要の増加は、今後も継続する可能性が高いでしょう。したがって、西側諸国と非西側諸国の関係、特に刻々と変化する米中関係の動向をチェックすることは、中央銀行によるゴールド購入の動きを察知するのに役立ちます。つまり、この政治動向が、ひいてはゴールド価格の先行指標としても機能する可能性があるのです。
重要な経済指標の発表
このセクションでは、ゴールド価格のボラティリティを激しく動かす要因となる経済イベントについて解説していきます。
AXIORYの経済指標カレンダーを活用してあらかじめご自身のカレンダーにチェックしておきましょう。
また、こうした発表が行われる時間帯の前後は、ボラティリティが通常の何倍にも膨れ上がります。油断すると一瞬にして資金を失ってしまうリスクが非常に高くなる点に十分にご注意ください。
➡️ AXIORY「経済指標・予測カレンダー」
https://www.axiory.com/jp/trading-conditions/economic-calendar
FOMC(連邦公開市場委員会)
世界経済を牽引するリーダーである米国の金融政策、特にFRB(米連邦準備制度理事会)による金利決定は、あらゆるマクロ経済イベントの中で最も高い重要度を持ちます。
長期的な視点で見れば、ゴールドが「完璧なインフレヘッジ」であるかどうかには議論の余地があります。しかし、多くの投資家がいまだに「ゴールド=インフレヘッジ」と認識しているという事実こそが重要です。なぜなら、短期的な価格変動においては、そうした市場全体の「認識(パーセプション)」こそが、価格を動かす真の要因となるからです。
FOMCの会合を前にして不可欠なのは、金利決定の確率、つまり「市場がすでに何を価格に織り込んでいるか(Priced in)」を評価することです。
この分析のために伝統的に最も効果的なツールとされているのが、CMEグループが提供する「FedWatchツール(フェドウォッチ)」です。これは「30日FF金利先物」の価格動向を追跡したもので、トレーダーがFRBの方向性を予測して実際に資金を投じている市場データを基にしているため、非常に高い精度を誇ります。

CMEフェドファンド先物に基づく目標金利の確率
最近では、米国発の「Kalshi(カルシ)」のような予測市場が勢いを増しており、将来のイベント予測において極めて高い精度を誇ることが実証されています。
CMEのFedWatch Tool(フェドウォッチ ツール)を確認するだけでなく、こうした予測市場の動向も活用することで、中央銀行の次なるアクションに対してより明確な予想(期待値)を形成することができます。

KalshiにおけるFOMCの金利予測確率
まずベースラインとなる予想を立てたら、いよいよFOMC会合本番に向けて準備を進めます。
この特定の例では、市場のコンセンサス(合意)が完全に形成されていません。「0.25%(25bps)の利下げ」の確率が66~67%、「金利据え置き」の確率が32%となっており、意見が割れている状態です。
会合当日までこの確率が変わらないと仮定しましょう。その状況で、FRBが「25ベーシスポイント(bps)の利下げ」を決定したとします。この利下げは市場に「完全には織り込まれていなかった(確率は約67%止まりだった)」ため、理論上は、発表直後に価格が上昇(ラリー)すると予想するのが合理的です。
しかし、金融市場はそう単純ではありません。 実際には、以下の2つの微妙な要素も市場の動きに大きく影響します。
1. FRB議長会見によるサプライズ
FOMC会合の直後に行われる、FRB議長の定例記者会見での発言内容は、金利決定そのものと同じくらい、あるいはそれ以上に重要です。
金融市場は常に「将来」を見据えて動いています。そのため、予想外のハト派的(金融緩和・低金利を選好)な発言や、タカ派的(金融引き締め・高金利を選好)な発言が飛び出すと、会見直後の価格が激しく乱高下する場合があります。
2. 直前のポジショニングと流動性
FOMCのような重要イベントの直前には、マーケットメーカー(値付け業者)はリスク回避のために注文板からオーダーを引き上げる(キャンセルする)ことがよくあります。
これにより市場の流動性が低下し(板が薄くなり)、通常なら小さな注文でも価格が大きく変動してしまいます。その結果、価格が新たな適正値を必死に探そうとして上下に激しく振れ、長いヒゲを付けた「迷いのローソク足」を形成することが多々あります。
この初期の「流動性ショック」が収まると、注文が徐々に市場に戻ってきます。通常、価格はその後24~48時間かけて新しい情報を着実に消化していく動きを見せます。ポジショニングのフローやオーダーフローの力学を正確に読めるトレーダーにとっては、ここが収益のチャンスとなります。
米雇用統計(NFP)
これまでの解説でもお伝えしたように、金利はゴールド価格に影響を与える最も重要なマクロ経済要因であるため、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策を決定づける「2つの核心的な責務(デュアル・マンデート)」である、「インフレ」と「雇用」を注視するのは理にかなっています。
米雇用統計(Non-Farm Payrolls、通称:NFP)は、毎月発表される雇用データの中で最も重要な指標として位置づけられています。これは詳細な月次調査に基づき、非農業部門における雇用の純増減数を算出したものです。単なる机上の統計的推計ではなく、実際の調査データに基づいているという事実が、NFPの信頼性を極めて高いものにしています。
NFPで発表された数値は「将来の金利調整(利上げ・利下げ)の可能性にどう影響するか」という文脈で解釈されるため、市場に大きなボラティリティを引き起こします
🟣 強いNFP(予想より良い数値):
通常、経済の強さを示唆します。これは将来的な金利引き上げ(または高金利の維持)につながる可能性が高まるため、金利を生まないゴールドにとっては弱気要因(ベア)となります。
🟣 弱いNFP(予想より悪い数値):
経済の減速を示唆します。これは金利引き下げの可能性を高めるため、ゴールドにとっては強気要因(ブル)となります。
消費者物価指数(CPI)と個人消費支出(PCE)
FRBの「2つの責務(デュアル・マンデート)」のもう一つの柱は、インフレを抑制することです。また、スタグフレーション(不景気の中でインフレが進行する状態)のような環境下では、ゴールドこそが資金の逃避先として理想的な資産となることから、主要な機関投資家もインフレ動向を注視しています。
こうした背景から、消費者物価指数(CPI)と個人消費支出(PCE)は、FRBの金融政策の行方だけでなく、機関投資家のゴールドに対する関心の度合いを測る上でも極めて重要な指標となります。
どちらもインフレを数値化することを目的としていますが、その算出方法にはわずかな違いがあります。
🟣 CPI(消費者物価指数):
最も知名度が高く、世界中で広く認識されているインフレ指標です。
🟣 PCE(個人消費支出):
FRBが政策判断において重視(選好)している指標です。より広範囲な支出データを対象としており、消費者の「代替行動」も考慮に入れているため(例:牛肉の価格が上がった際、消費者が代わりに鶏肉を買うといった行動の変化を反映する)、一般的にCPIよりも実態を正確に捉えていると考えられています。
まとめ
本記事では、ゴールド取引を取り巻く複雑なファンダメンタルズの全体像について解説してきました。
時に相反するような相関関係が数多く存在し、非常に多くの要因に左右されるため、ゴールドの取引は一筋縄ではいかない場合があります。
価格を動かす最も重要な変動要因は、市場全体のリスクセンチメント、インフレ・サプライズ、米ドルの強さ、そして実質金利です。
これらの要因に「需給ダイナミクス」を組み合わせて分析することで、現在のゴールド市場における「強気シナリオ(ブルケース)」の背景が見えてきます。それはすなわち、経済に対する信認の揺らぎ、低い実質利回り、そして中央銀行による旺盛な需要です。