雇用統計鈍化や投資家心理向上から米ドル売りに

2022/11/07 619 JST投稿

【今週の見通し】(1107-1113日)
先週は、1112日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)で4会合連続の0.75%の利上げが実施され、次回12月の会合では利上げ幅の縮小観測が強まると米ドル売りに転じた。長期金利が低下したが、114日に発表された米雇用統計で景気後退観測が強まると長期金利が上昇に転じている。

今週は、大幅に開いた日米金利差が意識される上、1110日に発表される10月米消費者物価指数(CPI)で堅調な状況が示されると、長期金利が上昇し、米ドルが買われる可能性が高い。また、8日に行われる米中間選挙ではトランプ氏が属する共和党が優勢で、バイデン大統領が属する民主党は厳しい状況だが、バイデン政権はインフレ払拭に尽力しており現時点での影響は軽微と思われる。そのため、金利高、米ドル高は続き、底堅い展開が続くだろう。一方で、対円で150円を超えた場合は、日本の円買い介入が入る可能性が強く、上値も限られそうだ。

なお、米国は6日に冬時間に移行している。マーケットの取引時間や各種経済指標の発表時間が1時間繰り下げとなるため、注意したい。

また、英国ではイングランド銀行(中央銀行)が113日、政策金利を0.75%引き上げ3.00%とした。202112月以降、8会合連続の利上げとなり、1989年以来、約33年ぶりの上げ幅となっている。その一方で、スナク政権が17日に発表する財政計画で増税を公表する懸念が強まっており、今週はポンド売りが優勢とみられる。11日に発表されるGDP速報値が予想を下回った場合、さらなるポンド売りにつながる可能性が高まるため注意したい。

主なスケジュール
117日(月):中国貿易統計(10月)、ラガルドECB総裁講演、ボストン連銀総裁/リッチモンド連銀総裁・講演
118日(火):家計支出(9月)、景気動向指数(9月)、外貨準備高(10月末)、米中間選挙
119日(水):景気ウォッチャー調査(10月)、中国消費者物価指数(10月)、ニューヨーク連銀総裁/リッチモンド連銀総裁・講演
1110日(木):ECB経済報告、米消費者物価指数(10月)、クリーブランド連銀総裁/カンザスシティー連銀総裁・講演
1111日(金):企業物価指数(10月)、英GDP速報値(第3四半期)、EU財務相理事会、欧州委員会秋季経済見通し、ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値・11月)、米債券市場休場(退役軍人の日の祝日)、中国「独身の日」

予想レートは米ドル・円が145円半ばから150円前半。ユーロ・米ドルが0.95ドル半ばから0.99ドル半ば。

 

【米国】

為替(1107600分)
 米ドル円(USDJPY)    146.65-146.67 (円)
 ユーロ円(EURJPY)    145.95-146.11 (円)
 ユーロ米ドル(EURUSD) 0.9957-0.9959 (米ドル)
 ポンド円(GBPJPY)    166.71-166.89 (円)
 ポンド米ドル(GBPUSD) 1.1372-1.1378 (米ドル)

114日のニューヨーク外国為替市場では、雇用統計の強弱入り混じる結果に左右された上、中国の「ゼロコロナ」政策終了観測が強まり投資家心理が上向いた。

まず、朝方に発表された10月の米雇用統計の速報値では、非農業部門雇用者数(前月比、結果:26.1万人、予想:19.1万人、前回26.3万人)が、市場予想を上回ったものの、前月の確報値(31.5万人増)から鈍化した。失業率(結果:3.7%、予想:3.6%、前回3.5%)でも、やや鈍化がみられた。米連邦準備制度理事会(FRB)の急激な金融引き締めで景気後退し始め、堅調な雇用にも影響が出始めたことが示されている。

この結果を受け、ボストン連銀のコリンズ総裁は「インフレ抑制に向けた金利引き上げを見極める時期となり、これまでより利上げ幅を小幅にする新たな局面に入りつつある」と述べた。さらにリッチモンド連銀のバーキン総裁やシカゴ地区連銀のエバンス総裁も、「高インフレに向け利上げは継続するものの、さらに小幅な利上げにシフトすべき」と示唆している。

金融政策の影響を受けやすい2年債と10年債(長期金利)の利回りは、85日連続で逆転(逆イールド)しており、終値ベースでは2年債が4.658%10年債が4.163%だった。なお、2年債は雇用統計発表直後に急激に上昇し4.883%となり、20077月以来の水準まで上昇した。

また、中国政府が「ゼロコロナ」政策を緩和するとの報道から投資家心理が上向いた。これにより中国の国外市場(オフショア)で人民元が買われた上、さらにユーロ買いも活況となっている。

合わせて、欧州中央銀行(ECB)のデギンドス副総裁とラガルド総裁のタカ派的な発言がユーロ買いを後押しした。まず、デギンドス副総裁はインフレ率がECB目標を長期にわたり上回る見込みで、更なる利上げを示唆した。ラガルド総裁も高インフレを抑制するために、更なる利上げの引上げを要する可能性に言及した。

米ドル・円(USDJPY)は、米雇用統計の強弱入り混じる結果に左右され、長期金利も上昇から低下に転じた影響を受け、この日の安値146.56円までまで米ドルが売られた。その後147.34円まで戻すも、複数の金融高官の利上げペースの減速に関する発言を受け、再び米ドル売りが優勢となり終値は146.62円だった。中国の「ゼロコロナ」政策緩和への思惑から投資家心理が上向き、人民元やユーロが対米ドルで買われたことも大きい。

ユーロ・米ドル(EURUSD)は、米雇用統計発表直後は0.9753ドルまで値を下げたが、米ドル・円の下落や中国の「ゼロコロナ」政策転換への思惑からユーロ買いが強まった。ECBのラガルド総裁とデギンドス副総裁が更なる利上げに言及したことも好感され、この日の高値0.9966ドルを付け、その後は小幅に値を下げ終値は0.9957ドルとなった。

ユーロ・円(EURJPY)は、ユーロ・米ドルの上昇につられユーロが買われた。この日の高値146.14円を付けた後は、小幅に売られ145.99円で終えている。

株式
 NYダウ平均  USD 32,403.22 +401.97+1.25%
 NASDAQ総合 USD 10,475.254 +132.313 +1.27%
 S&P500   USD 3,770.55  +50.66+1.36%) 

114日の米株式市場のダウ工業株30種平均は5日ぶりに前日の終値を下回った。中国当局が「ゼロコロナ」政策を緩和するとの報道から投資家心理が上向き、午前中は幅広い銘柄が買われた。FRB高官が利上げ減速に言及し、長期金利が低下したこともプラスとなり、前日の終値を610ドルほど上回っている。その後、長期金利が上昇すると前日の終値を下回る場面も出たが、買戻しが入ると値を戻した。

債券
米国債10年 4.163%+0.039

商品
 NY原油(WTI) 1バレル=USD 92.61 +4.44+5.04%)(12月渡し)
 NY金(COMEX) 1オンス=USD 1,676.60 +45.70+2.80%)(12月渡し)
 

【日本】米雇用統計の発表控え様子見の姿勢強まる

為替(17時)
114日の東京外国為替市場は、米連邦公開市場委員会(FOMC)後に米ドル買いが強まった影響から、機関投資家の未決済通貨の持ち高(ポジション)調整が優勢だった。

米ドル・円は、FOMC後の持ち高調整が優勢となったが、米雇用統計の発表を控え様子見の姿勢から値動きは限定的だった。小幅に米ドル売りが優勢となり、147円後半中心での狭い値幅での取引に終始した。この日の安値147.70円まで値を下げ、17時時点では147.88円となった。

ユーロ・米ドルは、大きな動きはないものの小幅に値を上げ0.9795ドルまで上昇した。その後は、わずかに売られ、17時時点では0.9764ドルだった。

ユーロ・円でも、米雇用統計の発表を控え様子見が強まり小幅な動きに留まった。米ドル・円の下落につられ、この日の安値144.29円まで安くなると小幅に盛り返し17時時点では144.39円で取引されている。

債券
 国債先物・2212月限  148.43 -0.37
 10年長期金利  0.250%+0.005

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アナリストプロフィール

Noriko Sasaki

投資運用歴25年。日系銀行、シティバンク、日興シティ信託銀行の勤務や、ITベンチャー企業でのIR・広報などを経て、金融に強みを持つライターとして活躍。
これまでのキャリアで培った金融の知識と、企業経営の視点、ニュースを複合的に織り交ぜたマーケット分析を得意とする。


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